大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)7938号 判決
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【判旨】
四ところで、請負契約において、仕事が完成しない間に注文者の責に帰すべき事由によりその完成が不能となつた場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法第五三六条第二項本文により、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、同項但書によつて、自己の債務を免れたことによる利益が存するときはこれを注文者に償還すべき義務を負うものと解すべきところ、右二及び三において認定、判示した事実によれば、前記第二新大阪ハイツ及び八尾ハイツの各設計監理請負契約に基づく原告の設計及び工事監理業務は、工事中止、敷地売却という被告の責に帰すべき事由により、その完成が不能となつたものというべきであるから、これにより原告は右業務を完成させる義務を免れる一方、右各請負契約において定められた報酬額、即ち第二新大阪ハイツにつき一一一〇万円、八尾ハイツにつき九六〇万円を被告に請求しうるものである(なお、右両ハイツの設計監理請負契約において報酬が建築工事代金の二パーセントと定められていたこと、建築工事金はいずれも坪当り二五万五〇〇〇円であつたことは先に判示したとおりで、新大阪ハイツ及び八尾ハイツの計画延床面積がそれぞれ約二一八四坪及び約一八九三坪であることについては、当事者間に争いがない。そこで、右各数値を基礎として報酬額を計算すると、第二新大阪ハイツは約一一一三万八四〇〇円、八尾ハイツは約九六五万四三〇〇円となるが、原告はいずれについても一〇万円未満を切捨てた額を主張しているので、右主張の額を報酬額として認める。)
もつとも、被告は原告が右の履行不能により両ハイツに関し工事監理を免れたから報酬の二五パーセント、合計五五三万四九二八円の監理料相当額については支払義務がない旨主張するところ、原告が第二新大阪ハイツ及び八尾ハイツの工事監理業務を免れたことは右に判示したとおりであり、両ハイツの前記請負契約において工事監理料が報酬額の二五パーセントであつたことは原告の自認するところである。そして、原告が右両ハイツの工事監理を免れたからといつて直ちに右工事監理料全額が右業務を免れたことによる利益となるものでないことは明らかであるので、被告の主張はそのままこれを採用することはできないが、他方、原告は、右業務を免れたことにより、これを遂行するうえで当然に余儀なくされた筈の人件費その他諸経費の支出を免れ、右支出額に見合う利益を得たであろうことも容易に推認することができるところ、<証拠>によると、社団法人日本建築家協会の定める報酬規程では、設計監理報酬の算出は、建築工事費に、その額に応じて定められた料率を乗じて算出する方法が原則とされているが、本件第二新大阪ハイツや八尾ハイツのように工事費が五億円前後である場合、その料率は六パーセント強であり、本件における二パーセントという料率はこれに較べ相当に低いものであること、また、前記報酬規程では、業務の性質により右の料率による算定方法が不適当な場合は、実費(人件費と諸経費との合計)に報償を加算する報酬加算実費式によるものとされているが、この場合報償は実費の二五パーセント以上が基準として掲げられていることが認められ、こうした事情等を総合し勘案すると、原告は、工事監理業務を免れたことにより、少なくとも監理料の八〇パーセント相当額の人件費等諸経費の支出を免れ、右同額の利益を得たものと推認することができ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、他方、原告が右以上の利益を得たことを認めるに足りる証拠もない。
また、原告は、両ハイツの敷地売却が被告の都合によるものであつたので、被告は特に報酬の全額を支払う旨約したと主張するが、これを認めるに足りる証拠は存しない。
そうすると、右利益即ち第二新大阪ハイツに関し二二二万円、八尾ハイツに関し一九二万円(いずれも前記の各報酬額に一〇〇分の二五と一〇〇分の八〇とを乗じて算出した額)は、これを被告に償還すべきものであるから、原告は損益相殺により、前記の各報酬から右各金員を控除した残額についてのみ被告にその支払を求めうるものであり、被告の前記主張は右の限度で理由があるが、その余は失当である。
(山本矩夫 矢村宏 三代川三千代)